「日本民間故事」長脖子妖怪


「日本民間故事」長脖子妖怪

昔々むかしむかし、旅たびから旅たびを続つづける一人ひとりの男おとこがいました。ある日ひのこと、日ひが暮くれてきたので、男おとこは浜松はままつの近ちかくにある村むらの宿屋やどやに泊とまる事ことにしました。その夜よるはあいにく、泊とまり客きゃくがたくさんいました。そこで男おとこは美うつくしい女おんなの旅人たびびとと一緒いっしょに、一ひとつの部屋へやの真まん中なかに屏風びょうぶを立たてて、一夜いちやを過すごす事ことになりました。

很久以前,有一位四處漂泊流浪的男子。有一天,太陽已下山了,男子決定在濱松(靜岡縣西南部)附近的一個村子的旅館過夜。真不湊巧,那天夜晚留宿的旅客特別多。因此,這男子不得不和一個漂亮的女住客共用一間房,中間用屏風把房間隔開了。


夏なつの夜よるだったので、いつまで経たっても蒸むし暑あつく、眠ねむたくてもなかなか眠ねむれません。男おとこは夜更よふけになって、やっと、うとうとしはじめました。屏風びょうぶの向むこうで寢ねている女おんなの人ひとも、やはり眠ねむれないのでしょうか。いつまでもモゾモゾしていましたが、そのうちに急きゅうに起おき上あがる気配けはいがしました。「はて。便所べんじょにでも行くのかな?」男おとこはそう思おもいましたが、けれども、隣となりはすぐに靜しずかになりました。

這是一個悶熱的夏夜,即使很困,也熱得人難以入睡。直至深夜,男子才終於開始迷迷糊糊犯困了。躺在屏風對面的那個女人,大概也是難以入睡吧,她不停地在那裡輾轉反側。此時,那男子感覺到她突然起身。他心想:她是去上廁所吧?可對面卻突然安靜下來。


ところがしばらくすると、屏風びょうぶの向むこう側がわから、生溫なまあたたかい風かぜが吹ふいてきました。そして女おんなの人ひとの白しろい顔かおが屏風びょうぶの上うえに伸のび上あがって、フワフワと部屋へやの中なかを動うごき始はじめたのです。男おとこはびっくりして、ごくりと息いきを飲のみ込こみました。「さては、隣となりの女おんなはろくろ首くびだな。」

過了一會兒,從屏風對面吹來了一陣暖風。只見那女人白皙的臉伸到了屏風上面,開始輕飄飄地在屋裡晃動。這男子見狀大吃一驚,倒吸了一口涼氣。他心想:原來隔壁的女子是一個長脖子妖怪吶!


男おとこは寢ねたふりをしながら、暗くらい部屋へやの中なかを動うごき回まわる女おんなの白しろい首くびを見みていました。女おんなの首くびは男おとこの足元あしもとの方ほうへ行いったかと思おもうと、屏風びょうぶの上うえを伝つたわって、天井てんじょうの方ほうへも登のぼっていきます。細ほそくなった白しろい首くびが、クネクネと伸のびていきます。

這男子一邊假裝睡著,一邊看著那女人白皙的長脖子在黑暗的屋裡四處轉動。眼看那女人的長脖子就要伸到自己的腳底下了,忽然間它又轉到屏風的上方,往天花板的方向伸去。那細長的白皙脖子蜿蜒地不停往上伸啊伸。


男おとこはろくろ首くびが少すこしでも悪わるさをしたら、飛とびかかっていって長ながい首くびを引ひきちぎってやろうと思おもいましたが、けれどもろくろ首くびは何なにも悪わるさをしません。ただフワフワと、楽たのしそうに部屋へやの中なかを動うごき回まわっているだけでした。

這男子心想,要是這個長脖女妖使壞的話,我就跳過去把它的長脖砍斷。但是長脖女妖什麼壞事都沒幹,只是輕飄飄地似乎很高興地在屋裡四處晃動。


だけどそのうちに、女おんなの白しろい首くびは半分開はんぶんあいた雨戸あまどの間あいだから、するりと外そとへ抜ぬけ出だしていきました。「はて。どこへ行いくのだろう?」 どうせ眠ねむれないので、男おとこは頭あたまを上あげると、ろくろ首くびが伸のびて行いく後あとを追おって、雨戸あまどの間あいだから外そとへ出でて行いきました。

然而過了一會兒,那女人白智的長脖子從半開的雨窗之間,“嗖”地一下往外伸了出去。這男的心想:哎?這是要去哪兒?反正也不著,這男子便抬起頭,順著長脖女妖伸展的蹤跡,也從窗戶鑽出去了。


美うつくしいろくろ首くびは宿屋やどやの前まえの通とおりを橫切よこぎって、お地蔵じぞうさんの建たっている林はやしの中なかへ入はいって行いきました。そして林はやしの奧おくにある池いけの畔ほとりまでフワフワ伸のびて行いくと、蛇へびのように長ながい舌したを出だして、池いけの水みずをペロペロと舐なめ始はじめたのです。

那美麗白皙的長脖女妖橫穿過旅館門前的馬路,進入了安放著地藏菩薩的樹林中。然後又輕飄飄地伸展到林中深處的一個池子邊,伸出了像蛇一樣的長舌,“吧嗒吧嗒”地開始舔池塘裡的水。


「なんだ、水みずを探さがしていたのか。喉のどが渇かわいていたので、こんな所ところへ水みずを飲のみに來きたのだな。そう言いえば、おれも喉のどが渇かわいたな。」そっと後あとをつけてきた男おとこは、木きの陰かげに隠かくれてゴクリと喉のどをならしました。

悄悄地跟在長脖女妖后面的男子自言自語道:“哎呀!原來她是在找水呀。因為口渴,才跑到這種地方來喝水呀。說起來,我也有點口渴了。”他躲在樹陰下,嚥了下口水。


その時とき、水みずを飲のんでいたろくろ首くびが男おとこの方ほうを向むいて、ニヤリと笑わらったのです。「しまった。見みつかったかもしれん。」男おとこは急いそいで宿屋やどやへ戻もどり、また雨戸あまどの間あいだから部屋へやの中なかに入はいると、なにくわぬ顔かおをして眠ねむってしまいました。

這時,正在喝水的長脖女妖突然朝著男子的方向微微一笑。“糟啦!可能被她發現了。”男子心想。他急忙回到旅館,從半開的遮雨窗進了屋子,裝作若無其事的樣子睡下了。


さて、次つぎの日ひの朝あさの事ことです。男おとこより早はやく目めを覚さました女おんなが、屏風びょうぶの陰かげから男おとこに聲こえをかけてきました。「昨日きのうの晩ばんは、ずいぶん蒸むし暑あつかったですねえ。よく眠ねむれましたか?」「まったく。本當ほんとうに蒸むし暑あつかったですなあ。」男おとこはそう答こたえながら布団ふとんを片付かたづけて、屏風びょうぶを取り除のぞきました。女おんなの人ひとは鏡かがみに向むかって、髪かみの毛けを整ととのえていました。

第二天早上,比男子早起的長脖女妖隔著屏風跟他搭話:“昨晚真是悶熱呀!你睡得可好?”“是啊!真是太悶熱了!”這男子一邊回答一邊疊起被褥,然後他挪開屏風。那女人正對著鏡子梳理頭髮。


「暑あつかったけれど、昨日きのうは疲つかれていたのか、わたしはぐっすりと眠ねむって、夢一ゆめひとつ見みませんでした。」男おとこはわざと、とぼけた事ことを言いいました。「あら、そうでしょうか?あなた様さまは不思議ふしぎな事ことをなさいましたが…」女おんなの人ひとは口元くちもとに手てを當あてて、笑わらいを抑おさえながら言いいました。

這男子故作糊塗地說“雖然很熱,但因昨天太勞累了,所以我睡得挺香的,連夢都沒做呢。”“噢,是嗎?你沒有做什麼奇怪的事嗎?”這女人用手遮著嘴,忍著笑問他。


「はて。わたしが不思議ふしぎな事ことを?それは、どう言いう事ことですか?不思議ふしぎなことをしたのは、むしろあなたではないですか。」男おとこが少すこし怖こわい顔かおで言いい返かえすと、「あら、わたしが不思議ふしぎな事こと?わたしが一體いったい、何なにをしました?」と、言いうのです。

這男子略帶驚恐地反問:“什麼?我做了奇怪的事?你這是什麼意思?倒是你自己做了一些奇怪的事情吧?”“啊?我做了奇怪的事?我究竟做了什麼?”女子問道。


「それなら、言いってやりましょう。あなたは美うつくしい顔かおをしているが、実じつはろくろ首くびで、この部屋へやの雨戸あまどから抜ぬけ出だして、向むかいの林はやしの中なかにある池いけへ水みずを飲のみに行いったのではないですか」すると女おんなの人ひとが、ケラケラと笑わらいながら言いいました。「あなた様さまは、ご自分じぶんの事ことに気づいてないのですか?」

這男子告訴她說:“那我就告訴你吧。你雖然長了一張漂亮的臉蛋,但實際上是一個長脖子妖怪,你不是把頭從遮雨窗中間伸出去,伸到對面樹林裡的池子去喝水了嗎?”聽了他的話,這女人“咯咯”地大笑起來:“難道你沒有察覺到自己做的事嗎?”


「何なにをです!」「この部屋へやは、二階ふたかいですよ。」 「あっ!」

男子問:“怎麼啦?”“這個房間是二層樓哦。”女子答道。“.....啊!”男子聽了倒吸一口涼氣。


「ようやく気きがついたのですね。あなた様さまが首くびをどんどんと長ながく伸のばして、ずっとわたしの後あとをつけて來きた事ことを。夜中よなかにこっそり女おんなの後あとをつけるなんて、あまり良よいご趣味しゅみとは言いえませんね。」「…」男おとこはこの時ときはじめて、自分じぶんもろくろ首くびである事ことに気きづきました。

這女人繼續說:“你終於覺察到了吧?是您伸著那長長的脖子,一直跟在我後面,半夜三更悄悄地跟在一個女人後面,可以說不是什麼好嗜好吧?”“這....”男子無言以對。他這才察覺自己也是長脖子妖怪。


女おんなのろくろ首くびはニコニコ笑わらいながら、男おとこのろくろ首くびに言いいました。「ここでこうして出會であったのも何なにかの縁えん。どうです。似にた者同士ものどうし、これから旅たびを続つづけませんか?」「…いえ、せっかくの申もうし出でですが、」男おとこは急いそいで旅たびの支度したくをすると、どこへともなく去さって行いったという事ことです。

長脖女妖一邊微笑,一邊對男子說:“在這裡我們這樣相遇,也算是一種緣分吧?怎麼樣?同路人。今後一起結伴而行好嗎?”“....不!不啦!承蒙你的好意,但還是算了吧。”說罷,這男子就急忙準備出發。據說後來他不知去向。


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